酒処 はちわれ

わたしの お酒のおつまみ

つやつやの夜

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今日は良く晴れていて少し暑かった。久しぶりに大学へ行った。あと4ヶ月ほどでとある国家試験を控えているから、みんなで黙々と勉強した。白くて狭く四角い教室には資料がびっしりと貼り出され、そこにはただページをめくる音と、ペンが机を叩く音、これからの雲行きの怪しさを憂うどんよりとした空気だけが存在していた。

 

帰ってきたのは19時過ぎだった。10月、19時の空気はすっかり冷え込み、わたしの帰路を急かした。ご褒美にコンビニでカフェラテを買って飲んだ。些細な幸せが大好きだ。ちゃんと自炊をした。トマトソースをトマトジュースから作ってパスタを食べた。そのあと、吉本ばなな氏の「哀しい予感」を最後まで読んだ。

 

母親が吉本ばなな氏の大ファンだった。この本はそんな母親から貰った大切なものだ。今でも湯船に下半身だけ浸かりながら、熱心に「哀しい予感」を読み進める母親の姿が昨日のことのように眼に浮かぶ。対して何も考えていなかった中学生の頃、パラパラと読んだきりだったので、ふと読み返してみた。ロマンチックで甘い恋のはじまりの雰囲気、失った過去を想う胸の詰まるようなノスタルジー、愛すべき魅力的な登場人物たち、月夜のように綺麗で澄んだ読みやすい文章などが非常におもしろくて良かった。改めて純文学というものは良いなあと思った。

 

特に主人公の弥生が、おばのまるで生活感のない荒れ果てた館に居候するシーンの描写が良かった。そこに存在しているひとつひとつのものたちが吉本ばなな氏の綺麗な日本語で綴られることで、荒廃した生活の中のどうしようもない美しさやもの悲しさを感じることが出来た。また、全体的に、弥生の心に哀しい現実が迫っていく切なさ、おばの心の隙間に存在する古びた優しい記憶と寂しさ、どこか心地の良い非現実感などが複雑に合わさり、不思議な世界観を持った文体を楽しむことが出来た。要するに、「うまく言葉にできないけれど、なんとなく切なくて、いい感じ」だった。

 

本を閉じ、じっとしていると、満月のように綺麗につやつやと輝く切なさが心を満たしていった。同時に女性的で優しく、暖かさがあり、かつ淡々としていてシンプルな吉本ばなな氏の文章。どこかふわっとしていて、力強さはないかもしれないが、まるで遠くに香る金木犀の香りを嗅いだときのような、淡い感情が心をまんべんなく染めていって、今夜は良い夜になりそうだと思った。