酒処 はちわれ

わたしの お酒のおつまみ

やさしい誘拐

お題「ひとりの時間の過ごし方」

 

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自分から言うことでもないが、わたしは趣味が多いと思う。美味しいものをつくって食べること、お茶を飲むこと、本を読むこと、お洒落をすること、お寺や神社巡り、文章を綴ること、すべて大好きだが、特に好きなのは絵を描くこと、書道や写経をすること、手芸をすることだ。これらに共通しているのは、「単純な作業を黙々と行い続ける」という点だろう。このような「作業」というものは、人間とそれを取り巻く現実との間でクッションになってくれる。作業を行うことで、その時間だけは現実から少し離れることができる。書道などはよく〈何も考えずに無になれる〉というが、それはいわゆるそういうことだ。散らかった頭の中がいったん空っぽになり、静寂が訪れる。また、作業というものは本当に効力があって、集団の中でもわれわれを柔らかく受け止めてくれる緩和剤となり得る。例えば、全く知らない人間と2人きりでテーブルに座らされたとする。お互い何もせず、膝に手を置き、ただじっと時が過ぎるのを待ち、そこには沈黙だけが走る。ほとんどの人には居ても立っても居られない空気だろうと思う。ところが、何か作業をしながら2人でいる場合、「作業に集中する」という逃げ道ができる。例えば、各自編み物をしながらテーブルに座っているとする。編み物に集中することに逃げながらも、2人は知らない間に同じ時間を共有していることになる。そのうち、気がつけば「わたしは不器用なもので…難しいですねえ…」「わたしも今、間違えて編み戻ったところですよ」なんてぽつぽつと会話が生まれたりもする。作業とはさまざまな側面を持つ奥深い概念だ。

 

先述のように、かく言うわたしも無になれる作業へ没頭する時間が大好きだ。手を動かし、絵を描いたり字を書いたりする感覚を感じながらも、現実とは違う世界へ行けるからなんとも言えぬ心地よさがある。しかし、作業中わたしの脳みそは完全に無になる訳ではない。没頭すると、必ず2人の若者が脳内に訪れてくれる。ひとりはまだ10代の若い女の子、みんなよりも少しズレているところがあって、周りに打ち解けにくい。その代わり、とっても純粋で優しい心の持ち主だ。もうひとりの若者は20代くらいだろうか、女の子よりももっと繊細でいじけた心の持ち主で、いつも世界は自分に背を向けていると思い込んでいるから、ちょっとやっかいだ。

 

男の子は、女の子のことが好きだ。とは言っても、「この人に寄り添いたい」とか「幸せにしたい」というより、「この人なら絶対に僕を幸せにしてくれる」という塩梅。いつも憎み、終わらせてしまいたいと思っているこの世界の中で、女の子は唯一の光だと思っている。一方その女の子の方は、彼のことを好いてはいるが、世界がどうだとか恋愛がどうだとかそんな感情はない。単純に、一緒にいて楽しい人だと思うからいつも隣にいる。

 

はげしい感情と世界への憎しみを抑えられなくなった男の子は、ついに彼女をさらってしまう。しかし、さらうとは言っても、物騒なものではなくて、彼女を2人で見つけたもう誰も住んでいない廃墟に連れ込んで、世界の奥深くにて2人きりで過ごそうと言うのだ。そして、毛布に包まりながら暖炉を囲み、ホットワインでも飲みつつ、毎晩ゆっくりと「世界の終わらせ方」について真剣に話し合おうと言うのだ。

 

でも、いつの時代でも女の子は賢いから、彼が本当に世界を終わらせようとしている訳ではないことを知っている。だから毎晩、彼女は柔らかく微笑みながら、彼の手を包み、ただ横で彼の顔を見ているだけだ。そして、それは間違いなくこの世の中でいちばんの優しさなのだ。ーーーーーーー

 

ーーーーーーそんなことがいつも頭をよぎる。2人の若さゆえの衝動や、どうしようもない青臭さが、わたしの手を導いてくれるような気がする。そして、暖炉の火の暖かさと、女の子の手の柔らかさが、不思議と伝わってくるのだ。ああ、いつか、小説でも書いてみようかしら。