酒処 はちわれ

わたしの お酒のおつまみ

自然を愛でる

現代の人間が繰り返す、実に難しい日常生活活動には、たくさんの電気製品や便利な道具が欠かせない。テレビ、冷蔵庫、湯沸かし器、炊飯器、お箸、しゃもじ、洗剤、スポンジ。そんな複雑な道具たちを使いこなすかしこい人間が、はるか昔から共存してきた唯一のものがある。自然である。

 

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田辺聖子の「篭にりんご テーブルにお茶…」の『海は男、山は男』を読んだ。感銘を受けた。これらはその中の一節である。

 

〈私はことに、女のひとに自然と書物を愛してほしい、と思うものだ。それは、肌と心を美しくするから〉

〈自然は女にとっての男、海は情人〉

〈自然を愛する人に、悪人はいません〉

〈自然を愛する女のひとに、みにくい女はいません〉

 

その通りだと思った。自然とは無条件に人間に寄り添ってくれるもので、同じように人間も無条件に愛すべきものだと思った。

 

田舎に育ったから、自然は当たり前の存在だし、知らない間に好きだった。済んだ青空、かすかに耳に届く波の押し寄せる音、なまぬるく少しべたついた潮風。昔、砂浜だった私の実家の庭の、白いさらさらとした細かな砂と、それを掘ると出てくる貝殻やガラスのかけらを見つけた時の心の輝きをいつまでも忘れない。辛いときは海に抱きしめられにいく。畑にそびえる作物の神々しさ。雨上がりのくもった匂い。田んぼに映る夕焼けのなんとも言えぬ美しさ。夕焼けに染まる稲の輝き。風のおはなしする声。小さな池にうつる水面のかわいいダンス。わたしは全力でこれらのものたちが大好きだし、そういう感性を持っていることに誇りを持っている。わたしは、人生の楽しみをひとつ、知っている。

 

大人になった今も、朝はジャスミンティーの香りで起きる。野菜を好んで食べる。ひとり風のそよめきの中、出勤する。ミントやラベンダー、レモングラスのアロマオイルをコットンに垂らし、素敵な香りに包まれて目を閉じる。お花を見つけては愛で、絵を描く。空き地の緑を眺めてはそのゆったりとした時間の流れに想いを馳せる。夜はセントジョンズワートカモミールティーを飲んで安らかな眠りにつく。

 

自然を愛する女のひとに、みにくい女はいない。みんな知らずと自然とともに生きているのだから。自然とともに生き、自然を愛で、わたしはどこまでもうつくしい人間になりたい。自然を愛するひとに、悪い人間なんていないはずだから。