酒処 はちわれ

わたしの お酒のおつまみ

天国はきっと水色

今週のお題「わたしの好きな歌」

 

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まるで涙ぐんだような、どんよりとした曇天の空が続くこの季節になると、スピッツの歌が聴きたくなる。スピッツといえば「チェリー」とか「空も飛べるはず」とか、ふわふわと優しくて明るいイメージがあるが、彼らの真髄はそこではない。実際のスピッツは、どろっとしたどうしようもない人間の陰や、欲望、そして胸がキュッと締まるような切なさなどで構成されている。ほとんどの楽曲の作詞作曲はボーカルの草野マサムネ氏が担当だ。従って、スピッツのその独特な世界観は、彼が全てつくりあげている。わたしは彼を正直に天才だと思う。

 

彼の紡ぐ言葉たちがどうしようもなく好きだ。「花泥棒」とか「フェイクファー」「リコリス」「スターゲイザー」とか、題名はどこかかわいくて謎めいているし、それでいて、彼の歌詞はどこか弱気で、あいまいで、とても脆い。寂しくて聞こえてはいけない声が聞こえてきそうな夜、何度スピッツに優しく抱きしめてもらったことか。スピッツの歌は背中を押すとかそういうことは決してしてくれないけれど、そっとそばにいて寄り添ってくれる。文学的で切ないスピッツの歌が、生きていく上でとても大切だ。

 

MVが秀逸な作品がある。「水色の街」だ。閑散としたタイの街並みを、タイでは神聖な存在であるゾウとともに、草野氏がただ存在している。シンプルかつ強烈な映像とともに流れる「水色の街」は、こんな歌だーーー

 

「川を渡る 君の住む街へ」

「優しくなって プレゼント持って」

「会いたくて 今すぐ 間違えたステップで」

「水色のあの街へ」・・・

 

YouTube

 

荒い映像とともに紡がれる草野氏の言葉たちは、わたしには「天国」を彷彿とさせる。間違えたステップを踏んでいるのは分かっているよ、でも君に逢いたくて、やさしい気持ちでここまで来たんだ、川を渡って・・・。 

 

彼にとっての天国は水色なのだろうか。彼の色あざやかな感受性には心から脱帽してしまう。リズムも優しいのにどこか寂しくて、文字通り胸が締め付けられる。

 

「天国」といえば、以前こんな夢を見たことがある。わたしはひとりで晴れ渡った空、雲の上にいる。わたしのいるその空間だけがガラス板貼りになっていて、ポツンと机と椅子がある。わたしの目の前には、目には見えない何かが存在していて、椅子に腰かけたわたしにこう問いかけてくるーーー 「生きますか?死にますか?」ポカンとしたわたしは、選択するどころか、何が何だかわからずに戸惑っている。何か言おうといいかけたその瞬間ーーー目が覚めた。以来、これがわたしにとっての天国に近いところのイメージだ。「死にます」と答えれば、天国行き。多分。

 

しかし、こんな唐突に「生きますか?死にますか?」とだけ尋ねられて、「はい、死にます」なんてスラスラと答えられる人間が果たしているのだろうか。もしかして、大概の人間は「え?えっと…どうなってるんだ…その…分かりません…」となって、曖昧な答えなので強制的に死亡、とかにさせられるなどしているのではないだろうか?死んでしまった人の中で、実はまだ生きているべきだったはずの人は多いのかもしれない。

 

さて、スピッツだが、他にも素晴らしい楽曲は、書ききれないほどある。こんな陰鬱な季節だからこそ、スピッツを聴いて過ごしてみてはどうだろうか。きっと体験したことのない不思議な、でもどこか優しく寄り添う世界が待っている。